時知らせのiPhone

街の明かりが遠くに見えた

この街は朝も昼も夜もなく何時もすべてが見え、隠れる

季節が冷えてまた巡る

私は何となく小さく消えかかっていたので、確かめるようにかじかんだ手のひらを覗き込んでいた

タクシーを飛ばして帰っても良かったのだけれど、時間がそこにあったので、新宿の駅で電車を待つ事にした

駅には始発待ちの人々が交々と言葉の彼方に揺れてまどろむ

きっともうすぐ目を閉じてしまう

そしてまた私たちはエトセトラのほうへと飛んで行く

というような事を段々と思い待つ間に可笑しくなって、私に贈られたこの時間の事を大事にしたくなって、というか持て余して、私は泣いてみる事にした

泣くなんて事は暫くしていなかった

どうやって泣いていたのか、泣いた事があったのかすら疑わしい遠さ

嬉しくても悲しくても何故だか人は泣くのだけれど、どこへ続くのかもっと知りたいんだと思えて、目を凝らしてみたけれど無理なんだと気付いた

「本でもあればな。」と呟いて、物語を探した

iPhoneを取り出して、泣ける物語、検索

小さく遠く壮大で、いつかの何処かの誰かの物語を一通り読み、「泣けないなあ。」と呟いて、ポケットに仕舞う

「まだ光ってるな。」と街の明かりが近くに見えて、目線を上にあげてみれば、こんな駅のホームからでも星空はまだそこにあった

色んな光が見れるここでも

私はわかった気がして、小さく見える星々が一体いくつあるのかすべて知りたいんだと思えて、見渡してみたけれどそうじゃないと気付いた

電車はまだ来る気配はない

 

街はあかるく、そこに私はいない

すべてが見える言葉の彼方で、誰かが私を見ていて、飛ぶエトセトラ

星が現れては小さく消える

私は歩き始める、葉が舞い落ちる

何時にでもどこにでもひかりは育ち老い、葉はここに舞い落ちてくる

空は上に、地面は下にある

私は朝待ちの光のなかでまた覗き込む

時知らせのiPhoneがなじんだ右手に溶けて輝く

 

街の明かりは滲みはじめる

また朝が来るはじまるもえる

私は歩く

いつか歩き止む

色んな光が見れるどこでもと、分かった気がして呟いた

私のからだは流れ続ける

行き着いたどこかでまた覗き込む

目線を上にあげてみればまた、そこにある星空を知る

手のひらに小さく燃える星があらわれる

滲んだひかりのなか私はそれを見た

 

空は上に、地面は下にある

私は悲しくて泣いているのじゃなくて

私は嬉しくて泣いているのじゃなくて

私は何故泣いているのかって、言葉の彼方に問いかけた

電車はまだ来る気配はない

 

街の明かりは滲みはじめるまた朝が来るはじまるもえる

私は歩く

いつか歩き止む

色んな光が見れるここでもと、分かった気がして呟いた

 

私のからだは流れ続ける

行き着いたどこかでまた覗き込む

目線を上にあげてみればまた、そこにある星空を知る

 

街はあかるく、そこに私はいない

すべてが見える言葉の彼方で、誰かが私を見ていて、飛ぶエトセトラ

星が現れては小さく消える

私は歩き始める、葉が舞い落ちる

何時にでもどこにでもひかりは育ち老い、葉は私に舞い落ちてくる

空は上に、地面は下にある

私は朝待ちの光のなかでまた覗き込む

時知らせのiPhoneがなじんだ右手に溶けて輝く

 

街の明かりは滲みはじめる

また朝が来るはじまるもえる

私は歩く

いつか歩き止む

電車はまだ来る気配はない

 

月が少しだけ消えかかっていた

どこへ続くのかもっと知りたいんだと思えて、目を凝らしてみたけれどそうじゃないと気付いた

色んな光が見れるどこでもと、分かった気がして歩き出した

 

私のからだは流れ続ける

行き着いたどこかでまた覗き込む

目線を上にあげてみればまた、そこにある星空を知る

手のひらに小さく燃える星があらわれる

時が奏でる音楽に耳を傾けながら、滲んだひかりのなか私はそれを見た

 

※蓮沼執太氏の楽曲のプロモーション・ヴィデオのために書き下ろしたテキスト

 


蓮沼執太フィル ZERO CONCERTO - YouTube

 MV「ZERO CONCERTO」

監督:林靖高(Chim↑Pom)、北川陽子(FAIFAI)
撮影:小林由美子加藤和也(FAIFAI)、駱駝
テキスト:北川陽子「ZERO CONCERTO・INSPIRE」